太陽少年




思い出さない日なんて、一度も無いよ。
あの日、あの場所から連れ出してくれた。
触れた肌はまだ柔らかくて、暖かだった。
君が教えてくれた。
生きる勇気。詞を綴る運命。
紛れもなく。
君は。

初めてあたしに昇った、小さな太陽だった。

ねぇ。わからないでしょう?

大事で、綺麗なものを汚していくことの快感と、嫌悪なんて。

あたしだってわからなかった。

それが、酷く捻じ曲がった愛だったなんて。


 何もかもどうでも良かった。変わることが怖くて、それ以上に変わらない現実に絶望していた。若くて、我侭で、傲慢で、どこまでも駄目女だった。
「ねぇ、何考えてんの」
 セックスの後、煙草の紫煙を燻らせながら春樹は言った。あたしは裸でごろごろと転がりながら、半分うとうととしていた。
「んー。別に」
 せっかく思考を停止させられたのに、妙な横槍を入れられて気分が悪くなりそうだった。だからこいつとするのは嫌なんだ。
 人格なんて、いらない。
 あたしは機嫌を悪くして、ベッドから抜け出すと脱ぎ散らかした服をかき集めた。春樹は驚いたような顔をして、口を開けてあたしを見た。
「えっ、ちょっ……帰んの?」
「お前が余計なこと言うからやろ」
 酷い間抜け面だな、とか思いながら手早く服を着る。さっさとこの場から逃げ出してしまいたかった。春樹は慌てて煙草の火を枕もとの灰皿でもみ消して上半身を起こした。
「なぁ、待って。さっきの話……」
「何が?」
 シャツのボタンを閉じて、鏡で乱れた髪を直しながら気の無い返事を返す。セックスの間に交わした会話なんて、あたしは殆ど憶えちゃいない。春樹は困ったように目を伏せて、金色に染めたベリーショートの頭をポリポリと掻いた。
「だから……ちゃんとイカせられたら、俺と付き合ってって……」
「あんた、アホやろ」
 あたしは、振り返って春樹に視線を流す。
「あたしはね、誰とヤッてもイケるが。それが目的でしゆうがやもん。」
 そう言い放つあたしの顔は、きっと世界で一番冷たい女なんだろう。あたしが甲斐性なしって呼ばれる原因なんだろうな、きっと。
 春樹は言い返すことも出来なくて、不満そうに唇を尖らせてあたしを見ていた。準備が出来たあたしは、トートバッグを乱暴に引っつかんで立ち上がると、スカートについた埃を払った。
「そんじゃーね」
 また誘って、と付け足してあたしは少し早い時間だったけどその部屋を出て行った。
 そんな、土曜日の夕方。赤く染まる街も、ちらほら歩く人間も。あたしは、全てを憎んでいた。大嫌いだった。こんなもの壊れてしまえばいいのになんて思いながら、あたしはリストバンドで隠した手首にそっとキスをした。

 あたしの大嫌いな冬は、もうすぐそこまで来ていた。

 想い出に縛られて、生かされている。夢は、誰よりも早くこんな世界から解放されること。その気持ちがわかる人間なんて、そんなにいるわけがない。気が狂ってる?そう言って嗤う奴はそうしてくれればいい。電車の窓から見える太平洋の水平線の煌きにだって、興味はない。
 携帯の電源を切って、あたしは少しの間眠ることにした。

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