金魚は夢と現を行き交う
赤いライトに照らされて、彼女は踊っているように見えた。その姿は、まるで金魚だ。あたしは、真っ白いシーツの上でぼんやりとそれを眺めて、ゆるりゆるりとリズムをとった。
「何処を見ているの?」
赤い唇の角を上げて、彼女が微笑む。あたしはその白い頬に手を触れながら、首をかしげた。
「姉さん、あたし、わからないわ。此処が何処なのか、貴女が誰なのかも、薄れて消えてしまいそうなの」
「可愛い子」
しなやかな腕を伸ばして、その細い指先であたしを撫でた。
艶やかな黒い髪が、ふわりとあたしの胸元に毀れる。
もしかしたら、此れが世界の終わりというのかもしれないな、なんて。体の心からあふれ出すような感情のうねりに身をゆだねながら、そうあってほしいと願っている自分に気付かないふりをした。
嗚呼。貴女は金魚。
あたしは唯、この水槽を照らす月でありたい。
彼女の指先が、あたしを導く。揺ら揺らと煌く尾ひれに首を絞められて、あたしはもう身動き一つとることができない。
嗚呼。あたしは金魚。
貴女は唯、あたしを掬い上げる美しい指先。
微かに身震いをして、あたしは彼女の背中に爪を立てた。
「……姉さんっ」
「怖がらなくていいのよ。……さあ」
上り詰めたその先には、緩やかな開放感と淡い余韻。それだけしかないと知っているのに、あたしは何故か怖かった。
今が世界の終わりなら、あたしは何処へ行くんだろう。
貴女は何処へ行くんだろう。
少女が焦がれた御伽噺は、もう幕を閉じてしまったのに、真夏に漂う金魚は甘い悪夢を連れて来る。
あたしは、知っている。
彼女が、あたしを愛してなんかいないことを。
彼女は唯単に、美しいものを愛しているだけなのだから。
だけど、あたしは既に貴女に捕らえられている。
醜悪な臓腑を胸のうちに秘めて、それでも貴女を捕らえようと美しく着飾るだけの。
あたしは金魚。
「まるで、金魚ね」
と、彼女が言った。あたしの唇をその指先でなぞりながら、彼女は言った。何故だか涙が出て、あたしは緑色のシーツにもぐりこむ。気恥ずかしくて、しょうがないんだもの。現実に引き戻されて、はにかむ。
そんなあたしを、あなたは「美しい」と言ってくれるのかしら。